健康への効果

パントエア菌 LPS 経口投与による糖尿病型認知機能障害の予防について

執筆者名:Haruka Mizobuchi, Kazushi Yamamoto, Masashi Yamashita, Yoko Nakata, Hiroyuki Inagawa, Chie Kohchi and Gen-Ichiro Soma
論文名: Prevention of Diabetes-Associated Cognitive Dysfunction Through Oral Administration of Lipopolysaccharide Derived From Pantoea agglomerans
雑誌名:Frontiers in Immunology
発行年: 27 August 2021.
URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2021.650176/full

糖尿病が誘発する認知症の予防・治療薬開発への第一歩

研究内容的:
マウスの脳内に糖尿病を誘発する薬剤を注入して作成した糖尿病関連認知機能障害(以下DRCD)モデルマウスを用いて、①副作用なく DRCD 発症を予防すること、さらに、②経口投与した LPSpにより末梢白血球の膜結合型コロニー刺激因子1(CSF1)(注2)の発現が促進され、ミクログリア(注3)の CSF1 受容体(注4)を介して、ミクログリアが活性化し、その結果、脳内の神経を保護するシグナルが発現することを明らかにした。

背景/目的:
糖尿病は全世界で 4 億 6,300 万人が罹患しており、その深刻な合併症の一つに糖尿病関連認知機能障害(以下、DRCD)がある。DRCD を予防することは、世界中の人々の健康を維持する上で非常に重要だが、DRCD の根本的な予防法や治療法はまだ確立されていない。
そこで研究グループは、LPSpの経口投与に着目した。これまでの研究で、LPSpを経口投与することで、高脂肪食が誘導するアルツハイマー型認知症を予防できることを明らかにしてた(参考文献 1)。
他方、LPSpの経口投与が安全であることは、経済協力開発機構(OECD)の基準に準拠した試験により確認されている(参考文献 2,3)。 そこで、溝渕主任研究員らは、LPS の経口投与により DRCD を安全に予防できるのではないか、と考えた。

研究トピックス:
1.糖尿病関連認知症機能障害(DRCD)マウスの作製に短期間で成功
様々な認知症のうち、加齢によって脳にあるアミロイドβなど特殊なたんぱく質が蓄積されることで発症するアルツハイマー型認知症は、一般的に知られているが、糖尿病により引き起こされる認知症機能障害(DRCD)が臨床において注目されている。糖尿病の方はそうでない方と比べると、アルツハイマー型認知症に約 1.5 倍なりやすいこと、さらに、脳血管性認知症に約 2.5 倍なりやすいことが報告されている(国立国際医療研究センターHP より引用)。溝渕主任研究員らは、この DRCD に着目し、まず、マウスの脳室内にストレプトゾトシン(注5)を投与し、DRCD を引き起こすモデル作成に着手した。この技術により、通常は 1 か月以上必要とされる認知機能障害を約 1 週間で誘導できるモデル作製に成功した。

2.LPS の経口投与(自由飲水摂取)には、糖尿病が誘発する認知症機能障害(DRCD)対し予防効果があることを実証 1.で作製したマウスを用い、モリス水迷路(注6)により LPS 経口摂取による認知症機 能障害(DRCD)予防効果を実証した。

以下、実験内容の説明。
(1)マウスに以下の処置を行った(図 A)。
A 群は正常、B 及び C 群は、DRCD を引き起こしている状態。

<A 群:Saline>生理食塩水を脳室内に投与+蒸留水を経口投与
<B 群:STZ>ストレプトゾトシンを脳室内に投与+蒸留水を経口投与
<C 群:STZ+LPS>ストレプトゾトシンを脳室内に投与+LPS を経口投与

(2)モリス水迷路により、学習・認知機能を測定した。
1)学習実験(図 B)
実験に使用するのは水を張ったプールで、壁面にはいくつかの記号が書かれている。ある 1 つの記号の近くに水面ギリギリの高さの透明の台を置く。そのプールの中で、各群のマウスを泳がせて、台にたどり着く時間を計測する(1 日 1 回、4 日間実 施)。
1 日目は、どの群のマウスも同じような秒数で台にたどり着くが、2 日目以降は、A群が台にたどり着く秒数が日に日に早くなるのに対し、B 群は 1 日目とほとんど変化がなかった。一方、C 群は、B 群と同様に DRCD を引き起こしている状態であるに もかかわらず、A 群の正常なマウスと同様の推移で早くなった。この実験により、マウスは、ある記号の近くに台があることを学習、記憶したことになる。

2)記憶確認実験(図 C)
次に、1)で試験を行ったマウスを用い、今度は台を置かずプールを泳がせ、1)の実験で台が置かれていたある記号付近にどのくらいの時間居続けるかを計測、つまり台のあった記号を記憶しているかを確認した。
すると、B 群は、台が置かれていた記号付近での滞在時間が A 群より明らかに短いのに対し、C 群は、A 群と同等程度の滞在時間であること、言い換えると、正常なマウスと同等程度、認知機能を維持することが示された。

以上1)2)の結果は、LPS を経口投与することにより、DRCD を引き起こしている状態であっても認知機能が低下しないこと、すなわち LPS の経口投与により、糖尿病が誘発する認知症に対し予防効果があることを示す、重要な知見であると言える。2.LPS の経口投与(自由飲水摂取)には、糖尿病が誘発する認知症機能障害(DRCD)対し予防効果があることを実証 1.で作製したマウスを用い、モリス水迷路(注6)により LPS 経口摂取による認知症機 能障害(DRCD)予防効果を実証した。

以下、実験内容の説明。
(1)マウスに以下の処置を行った(図 A)。
A 群は正常、B 及び C 群は、DRCD を引き起こしている状態。

<A 群:Saline>生理食塩水を脳室内に投与+蒸留水を経口投与
<B 群:STZ>ストレプトゾトシンを脳室内に投与+蒸留水を経口投与
<C 群:STZ+LPS>ストレプトゾトシンを脳室内に投与+LPS を経口投与

(2)モリス水迷路により、学習・認知機能を測定した。
1)学習実験(図 B)
実験に使用するのは水を張ったプールで、壁面にはいくつかの記号が書かれている。ある 1 つの記号の近くに水面ギリギリの高さの透明の台を置く。そのプールの中で、各群のマウスを泳がせて、台にたどり着く時間を計測する(1 日 1 回、4 日間実 施)。
1 日目は、どの群のマウスも同じような秒数で台にたどり着くが、2 日目以降は、A群が台にたどり着く秒数が日に日に早くなるのに対し、B 群は 1 日目とほとんど変化がなかった。一方、C 群は、B 群と同様に DRCD を引き起こしている状態であるに もかかわらず、A 群の正常なマウスと同様の推移で早くなった。この実験により、マウスは、ある記号の近くに台があることを学習、記憶したことになる。

2)記憶確認実験(図 C)
次に、1)で試験を行ったマウスを用い、今度は台を置かずプールを泳がせ、1)の実験で台が置かれていたある記号付近にどのくらいの時間居続けるかを計測、つまり台のあった記号を記憶しているかを確認した。
すると、B 群は、台が置かれていた記号付近での滞在時間が A 群より明らかに短いのに対し、C 群は、A 群と同等程度の滞在時間であること、言い換えると、正常なマウスと同等程度、認知機能を維持することが示された。

以上1)2)の結果は、LPS を経口投与することにより、DRCD を引き起こしている状態であっても認知機能が低下しないこと、すなわち LPS の経口投与により、糖尿病が誘発する認知症に対し予防効果があることを示す、重要な知見であると言える。

3.LPS を経口投与により末梢白血球で膜結合型コロニー刺激因子1(mCSF1)が上昇することを発見
CSF1 は、単球とマクロファージの成長と成熟を促進することが知られている。脳内のマクロファージであるミクログリアには、活性化すると「神経障害的に働くタイプ」(M1型)と、「神経保護的に働くタイプ」(M2 型)があるが、CSF1 の刺激により、「神経保護的に働くタイプ」(M2 型)の作用が強くなることが判っている。
今回、DRCD を引き起こしたマウスに LPS を経口投与することで、末梢白血球で mCSF1 の発現が促進されることを発見しました。上記2.の結果と考え合わせると、末梢白血球 で発現したmCSF1 がミクログリアの CSF1 受容体に結合、活性化することにより、「神経 保護的に働くタイプ」に変化することを示唆するものと言える(図 D)。

【用語の説明】
注1 パントエア菌 LPS(LPSp):パントエア菌は、グラム陰性菌であり、土壌や植物 (小麦、イネ、サツマイモ、リンゴやナシ)に広く存在している。LPS は「リポポリサッ カライド」の略(日本語では「糖脂質」)。機能性素材として、健康食品や化粧品などに配 合されている。 注2 膜結合型コロニー刺激因子1(CFS1):リンパ球以外の白血球系幹細胞を刺激し て、成長を促進される作用を持つ因子。膜結合型とは、単球などの細胞膜に結合するタイ プのこと。 注3 ミクログリア:脳に存在する細胞の1つ。マクロファージとよく似た細胞で、細菌 などの体内に侵入してきた異物を食べたり(貪食)、抗原提示するなど、免疫反応におい て重要な役割を持っていて、ミクログリアも同様の働きを持っている。「脳のマクロファ ージ」、「脳の免疫担当細胞」と呼ばれる。 注4 CSF1 受容体:ミクログリアに存在。本研究で、膜結合型コロニー刺激因子1が結合 することによりミクログリアが活性化し、脳内の神経を保護するシグナルが発現すること が明らかになった。 注5 ストレプトゾトシン:動物に投与することで、膵臓のβ細胞に損傷を与え、糖尿病 状態にする。 注6 モリス水迷路:行動実験においてマウスやラットの空間記憶の試験に用いられる。

【参考文献】
1. Kobayashi Y, Inagawa H, Kohchi C, Kazumura K, Tsuchiya H, Miwa T, et al. Oral Administration of Pantoea Agglomerans-Derived Lipopolysaccharide Prevents Metabolic Dysfunction and Alzheimer’s Disease -Related Memory Loss in Senescence-Accelerated Prone 8 (SAMP8) Mice Fed a High -Fat Diet. PloS One (2018) 13:e0198493. doi: 10.1371/journal.pone.0198493 2. Nunes C, Usall J, Teixidó N, Fons E, Viñas I. Post-Harvest Biological Control by Pantoea Agglomerans (CPA-2) on Golden Delicious Apples. J Appl Microbiol (2002) 92:247– 55. doi: 10.1046/j.1365-2672.2002.01524.x 3. Usall J, Smilanick J, Palou L, Denis-Arrue N, Teixido N, Torres R, et al. Postharvest Biology and Technology Preventive and Curative Activity of Combined Treatments of Sodium Carbonates and Pantoea Agglomerans CPA-2 to Control Postharvest Green Mold of Citrus Fruit. Postharvest Biol Technol (2008) 50:1–7. doi: 10.1016/j.postharvbio.2008.03.001

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